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由衣は目を閉じて深く息を吸い込むと、何かを決心したように目を開けた。
「お姉ちゃんがさっき見たって言ったの、志保里ちゃんと同じ制服を着た女の子じゃない?」
「実は……そうなの。私が見たのは、家の前の道路に立っている姿だった」
「私が見たのも道路に立っている姿だった」
智樹が気づいた。
「まさか、あの時の女の子がこれを描いたっていうのか?」
「たぶん、そうだと思う。それにね、志保里ちゃんのお通夜のとき、私見たのよ、この部屋に女の子がいるのを」
「そんな馬鹿なことがあるか! 悪戯にもほどがある!」
「それは違うわ」美和子が言った。
「悪戯なんかじゃない。お通夜に来てくれた志保里のお友達は確かにいたけど、茂さんが全員を確認しているし、子供がいなくなったなんて話は出ていないのよ。これは悪戯なんかじゃない」
「話が見えてこないんだが、二人は何を言ってるんだ?」
由衣が言う。
「誰も認識していない女の子が一人いるの、それが誰なのかは分からないけど、いるのよ」
由衣が唐突に窓へ振り向いた。
「ねえ、お姉ちゃん」
「なに? どうかしたの?」
由衣が窓際に行くと二人の目にもカーテンの裾がわずかに靡いているが分かった。
カーテンをおもむろに掴んで、引き千切る勢いで開けた。
「誰なのよ!!」
窓ガラスが、おびただしい数の赤い手形で埋め尽くされていた。
「なんだよこれ!」智樹が声を荒げ、美和子は途切れそうな意識を必死に繋ぎ止めていた。
その時だ。
バツと電気が消えた。
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