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車に乗り込むと、由衣はすぐさまラメで装飾された煙草ケースを取り出した。
「お前さあ、彼氏が非喫煙者なのによく吸えるな、しかもこんな密室で」
「受動喫煙を気にしてるの? だいたいね、副流煙の被害なんて私が十本吸ってやっと一本吸ったのと同じになるのよ? 恋人だったら私のために一本くら吸ってくれたっていいと思うんだけど」
智樹は、由衣がいつも調子を取り戻しつつあることに安堵しながら、窓を開けた。
「それにしても、不憫だな。美和子さん」
参列する人の中には、幼稚園児の姿もちらほら見える。
「ねえ、智樹。あの子……」
そう言われて由衣が指さす方へと視線を向けた。
「志保里ちゃんの友達じゃないのか?」
「でも、なんか、様子がおかしくない?」
由衣の見た少女は道路の真ん中に、ただ立っていた。
まるで歩道にあるポールとか、置き忘れられた荷物かのように、ピクリとも動かずに。
「智樹君、由衣ちゃん」
と突然呼ばれ、二人は同時に肩をすくめて振り向いた。
車の外には日焼けした顔の男性が覗き込んでいる。
本田茂、美和子の夫である。
「美和子が大変なんだ、ちょっと来てくれないか?」
「どうしたんですか!?」と智樹がドアを開けると同時に、由衣もドアに手をかけた。
車を降りる智樹を横目に、由衣はさっきの少女を確かめようと目を凝らしたが、そこには街灯に照らされた道路があるだけだった。
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