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茂の後に続いて参列者の横をすり抜け、玄関へ入る。
すぐ正面にある階段に足を掛けるのと同時に、二階から美和子の叫びが響き渡った。
参列者もその声に驚きを隠しきれずに、ざわめき始める。
由衣達は茂の背中を押すように階段を駆け上がった。
二階は廊下を挟んで子供部屋と空き部屋の二部屋。そして突き当りには美和子を寝かせた寝室がある。
木の扉は少しだけ開いていて、蛍光灯の光が漏れていた。
「美和子! どうしたんだ!」茂が扉に駆け寄ると、
バタン!と激しく音を立て、扉は完全に閉まった。
「どうしたのよ! 早く開けてよ!」
由衣は智樹の背中越しに覗き込んでそう言った。
「ドアが、開かないんだ」
それを聞いて智樹がドアノブに力を込めた。
「なんだこれ……すげえ……硬い」
男二人で力を加えても、そのドアが動く気配は全くない。
「ねえ! 早く開けて!」
由衣はそう叫んで、なに? と心の中で呟いた。
自分の後ろから、視線を感じた。
振り向くとそこは子供部屋で、当然ながら志保里の部屋だ。
その扉が二センチ程度の隙間を作り、漆黒の闇を覗かせている。
誰か……いるの?
そんな筈がないことは、自分が一番よく知っている。でもそう思わずにはいられないほど、見られていた気がした。
足音を立てずに近づいてみると、極々うっすらと月明かりが、奥の白い壁を照らしているようだった。無意識に右足が、半歩だけ後退した。足先に冷たい空気が触れたのだ。理由の分からない不快感が、首筋を舐める。
閉めなきゃ。
危険を回避すのと同じように、由衣は反射的にそう思った。ドアノブを掴もうと視線を下ろす。ドアの隙間から、白い目が見上ていた。
ガラスが割れるほどの悲鳴が壁一面に突き刺さる。
由衣の声に振り向いた男二人は、開かないドアを諦めて駆け寄った。
「由衣! どうしたんだ!」
腰を砕かれ、立つことができずにいる由衣を抱き支える智樹。
由衣の身体は、まるで電圧をかけたかのように激しく震えていた。
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