一、 浜路、床に伏せる兄、道節を看病す

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 途中、南蛮の国の商人か奇妙な衣を身にまとった男たちとすれ違う。 彼らもまた、奇妙な娘だ。はて、それなりに美しい顔立ちではあるが…。 と浜路を上から下までなめるように見つめ、あっけなく通り過ぎて行った。  江戸を旅立って、季節は四度ばかりうつりかわった。兄の道節はここ何日か熱を出して床に伏せっている。  伏を追ううちに隙をつかれて川に突き落とされたのがはじまりだ。 伏は雌で、この地に住み着いて数十年、何万匹もの伏を世に送り出したというのだから、道節も浜路もその伏の艶めいた唇に悪寒すら走ったのを覚えている。 やれ、すたこらさっさ。と追いかけっこをするうちに名の知れた橋の上に追い詰めた。 女は浜路の一撃で腹に風穴があき、膝をついた瞬間に道節が首を切り落としたのだ。 安心するもつかの間、女の懐で静かに息をひそめていた子犬が、一矢報いて道節にとびかかった。そして、あっ。というまに道節を川へ突き落したのだ。 浜路もあんまり驚いたものだから、駆けていくその子犬を目で追うことしかできなかった。 「兄ちゃん…大丈夫かな」 浜路は、兄を世話してくれている故人の夫婦が住む屋敷へと向かった。
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