プロローグ

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プロローグ

雪のような白と、燃えるような赤のコントラストは既に失われてしまった。 白衣は鮮血に染まり、緋色の袴は鮮血に濡れている。 苦しいんだと思う。 長く美しい黒髪を脂汗で濡らし、肩を大きく上下させている。 だけど、誰……巫女さんなの? ううん、知っている。 綺麗だった。 凛としていた。 あどけないときもあった。 なにより、優しかった。 私は、この人が大好きだった。 だって、この人は……私のお母様。 でも、わからない……貴方は、誰なの? 人の形をした闇が、ただでさえ弱い星明かりを飲み込んでいる。 闇の輪郭は、腰の曲がった小柄な女性を思わせる。 その姿は、まるで……お婆さん? 違う。 そう判断するにはあまりに荒々しい動きだった。 振り下ろされた指先は空気を唸らせ、お母様の肌を……肉を……いとも簡単に引き裂いている。 だから……ねぇ……やめてあげよ。 お母様を、いじめないでよ。 ねぇ、お母様も……ダメだよ。 逃げなきゃ! 逃げなきゃダメだよ!! 闇が、笑う。 赤い飛沫(しぶき)をその場に残し、お母様の身体が宙を舞った。 直後、私の視点がふわりと高くなる。 私は闇の肩に担がれ……景色が流れ始めた。 怖い。 怖いよ。 だけど……もう、いいよ。 だからさ、もう立ち上がらなくてもいいよ。 お母様。 ねぇ、追いかけてこないでよ。 私のことはもういいからさ。 なのに……なのに……こんなの嫌だよ。 なんで……なんで、こんなことになっちゃったの? ねぇ……ねぇ……わからないよ。 だって……思い出せないよ。
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