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「葛葉の『同姓接触の拒絶』も、こうして君が自分の体について真剣に考える機会を与えたんだから、たまには役に立つんだね」  黒助はくすりと微笑む。俺は苦い表情を返すしかなかった。 「いきなり耳元で吐かれる奴の気持ちがお前に分かるか?」 「うん、僕だって、しょっちゅう彼女に吐かれてるからね。釘宮君もようやく僕の苦労が分かってくれたかな」  黒助の言葉に、俺は曖昧な頷きしか返せなかった。今まではあまり意識していなかったが、そう言えば黒助だって葛葉(二十六歳)からは相当遠ざけられていたのだ。 「女……ねぇ」  俺は無意識に呟いていた。それは今まで俺が余りに無関心でいた物事だった。  そもそも俺は人間に興味がない。だから男とか女とか、そういう違いにすら興味がなかった。  俺の興味があるもの? そんなの決まってる。釘だ。  俺はこの世に釘さえあれば生きていける。むしろ釘以外の何物もこの世に存在する意味なんてないのだ。 「……それは自分を含めてかい」 「そりゃそうだろう。俺の中にある重要性のピラミッドの頂点は、なんといっても釘だからな」  そんな事を真剣に語りながら、俺と黒助は――  窓のない見渡す限りの全面真っ白な部屋――黒助の個別病室に閉じ込められていた。
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