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心身に著しい故障を持つ十四歳以上二十六歳未満の者を収容する、医療少年院『パラノイア』の朝は早い。
健全な青年を自覚する俺は六時に起床し、いつものように白いパジャマ姿で、眠気と共に垂れてくる瞼と戦いながら、鏡の前に立った。
手で作った皿に水を流し込み、それを力いっぱい自分の顔に叩きつけて目を覚ます。俺がそれに気付いたのはそのときだった。
俺は寝る時パジャマをだらしなく着る癖があった。胸元を着崩して腹を出し、とてもじゃないが品行方正とは言えない様な格好で、夜を過ごしていた。
俺は鏡の中の自分の胸元がやけに膨らんでいる事と、臍の覗く色白の腹部に、普段見慣れぬくびれができているのを発見する。
「…………」
俺はしばらくじっとそれを見つめた。はて、俺は生まれてこの方このような体の凹凸があっただろうか。
しかし突如生まれた凹凸、肉体の奇形に対する俺の認識度は、その時点で現在の総理大臣の支持率並に低かった。
「まあ、いいか。よくあるよくある」
俺はその一言で片付ける。
朝起きたら、男のはずの俺が女になっていた――それを俺は、「まあ、いいか。よくあるよくある」レベルの事象であると判断した。
そしていつものように、俺はスクリュー釘で歯を磨き始めた。
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