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「確かに、元は魔薬なんていうもんのせいで、俺は狂ってしまったのかもしれない。人間に興味が無くなっちまったのも問題っちゃあ問題だ。けど俺はさ」  俺は黒助の目を見る。俺は嘘をつかないし、つく必要もない。 「釘好きに生まれて良かったと思う。少なくとも俺は、自分を幸せだと思ってるから」  だから。そのために俺がやるべきことがある。それを今日、お前のおかげで見つけることができた。 「その幸せのために、俺は人間をもっと理解しようと思う。だって考えてみりゃぁさ……釘を作ってるのって人間じゃん?」  人間に興味が無かった。だから、その生死に俺はとんと無頓着だった。人命より釘を重視する。それが俺だった。  それは今でも変わらないけど。でも黒助に出会って、案外人間にも面白いやつが居るっていうのが分かった。葛葉(二十六歳)とかもいるしな。  俺はたぶん、もっとここにいたいんだ。みんなと一緒に暮らすことが、少し楽しいと思い始めている。どうやら俺という人間は、この院で過ごすうちにいつの間にか、少しだけ変わっちまったらしい。  俺を他の病院へ移そうなんて輩が湧いてきてるそうだ。ならそいつ等に少々、釘を刺さなきゃいけないようだ。もちろん、比喩でな。  俺は黒助を連れて、俺が開けた大穴から病室を抜け出した。俺の変化の象徴であるこの穴を通って、息苦しい白の監獄から抜け出した。 「俺も少しは、人間の事を気にかけてやるか」 「釘宮君――」  この茶番劇に幕を下ろそう。俺は医者どもの居るところへと足を運ぼうとした――
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