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「聞いていてこちらが恥ずかしくなるようなやり取りをしていましたわね。けれど釘宮様。本当にあれで納得したんですか? そして黒瀬様、貴方はそれでいいんですか?」
俺と黒助は顔を上げる。俺は葛葉の言っている意味がよく分からずに。
そして黒助は、葛葉の言っている意味を理解したようだった。何故なら――これ以上ないほどに表情が固まっているからだ。切羽詰まっているといってもいい。
「釘宮様、よく考えてください。私はこういうの、ダメですわ。生理的に受け付けない。なあなあの曖昧に済ませていい問題じゃない。ええ、お節介には違いないのでしょうけれど、私の性格はこのままそれを流せる程に、大人ではないんですの」
年齢的には大人のくせに、こいつ何言ってやがる。俺は葛葉の伝えようとしている意図がよく分からない。思わず近づこうとするのだが、はっきりと拒絶される。
「それ以上こちらへ寄るな雌豚が!」
罵倒された。俺は足を止める。やっぱり面と向かって言われると、このセリフって心にダメージ負うよな。
「お二方、これ以上私に近づかないでください。そうでないと私、吐いてしまいますわ」
葛葉は耐え切れないように、俺と黒助から一歩後ずさる。俺は気勢をそがれて足を止める。そうだ、葛葉はそういう体質だった。
不用意に近づこうとすると、ろくなことにはならない。それは今朝の騒動で確認済みである。今の俺は女だからだ。
性別、か。
こう葛葉に拒絶されると、不便だな。葛葉自身に悪意がないことも、やりにくい気分になる要因の一つだ。葛葉は純粋に、本当に、女という生き物の存在に耐えられない。
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