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「どうして私が同性を嫌うかわかりますか? ――気持ち悪いからですの、女という生き物は。嘘の仮面を被って他人と同調し、でもその腹の内には黒々とした、どろどろとした、腐敗した欲望が渦巻いている。そういうのが、駄目なんですわ。気持ち悪い。吐き気がする。近づかれるだけで不快ですわ」  葛葉は俺と黒助をにらみつける。その嫌悪の視線は、俺と黒助個人に向けられたものではなく、『女』という性質そのものに向けられた拒絶なのだ。 「黒瀬様、まさかこの私が気づいてなかったとでも思っていたんですか? 私の体質を忘れたわけじゃないでしょう?」 「そうか……そういえば、そうだった。君なら僕の状態に、否応なく気づいていたのだろうね。……忘れていたよ」  黒助が、何かに納得するように頷いた。その眉間にはしわが寄っている。俺は何が何だか分からずに二人のやり取りを見守るしかない。何か重要なやり取りが、目の前で行われている事だけは分かった。 「私が貴方とこの院で共に暮らす内に、私は奇妙な状態に陥ったのですわ。だから私は貴方の事が苦手です。調子が狂うのです、貴方は。だって……貴方に近づくだけで吐き気を催す日があれば、次の日は親愛の情すら貴方に感じる。私の心を乱すあなたの存在は、不可思議で、不気味で、だから苦手なのです」  ある時は吐き気を催し、ある時は親愛の情すら感じる?  葛葉は女に対しては徹頭徹尾嫌悪する。同時に男に対してはすぐに懐く、気さくな性格をしている。  俺は息を呑む。葛葉の言っている意味を理解した。黒助の抱える魔薬中毒という観点から、その答えはすぐに出た。  黒助は一日毎に魔薬を注入しなければ生きていけない。なら、その魔薬とは―― 「そうだよ。葛葉の言う通り、僕は――性転換の魔薬を一日毎に服用している」  つまり、性別が一日毎に変わる。それが黒助の置かれた状況なのか。
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