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 この院で一緒に過ごして来た俺を仲間だと思ってくれているから? 大切に思ってくれているから?  それはそれで嬉しいと思う。今の俺はそれを嬉しいと思う感情を、持つことができる。  それとも、俺が黒助の父親を殺したからか? それに恩を感じたのだろうか。だが、それだと目の前のやり取りは一体どういう意味を持つのだろう。  その答えを、葛葉は口にした。 「女が抱く感情なんて言うものは、いつだって一つですわ。それに付随して色々な感情が周囲に廻る。黒瀬様、貴方は――釘宮様の事が好きなのでしょう?」 「~~~~っ!」  黒助の顔が一気に沸騰する。後ずさって、「いや、その」と口ごもる。ちらっと俺の方を見て、そして視線が合わさって、黒助はさらに赤くなった。死にそうな顔をしている。  俺はそんな黒助の様子を見て、訳もなく心拍数が上昇するのを感じる。うわ、俺どうしたらいいんだろう。この空気……凄くいたたまれないんだが。 「さらに言えば――」 「ちょ、ちょっと待ってくれ!」  黒助が精一杯な声で、葛葉に静止を呼びかけた。黒助は尋常ではない汗をかき、上気した頬を手で押さえながら、俺を見る。 「僕が、自分で、言うから」 「……そうですか。なら私の出番は終わりなのですわ」  葛葉は黒助の様子を見ながら、くすりと微笑んだ。おそらく葛葉が初めて同性に見せる笑顔だった。満足そうに頷き、葛葉は優雅に踵を返す。 「では、後の事は二人でごゆっくり。私は邪魔でしょうから、ここらで退散いたしますわ」  楽しそうな後姿だった。そしてよく見ると、内腿をぷるぷると震わせながら、慎重に歩いていた。トイレ、我慢してたんだな、ずっと。  俺と黒助は、深夜の廊下に二人きりになる。葛葉が廊下を通るときに点けたのだろう、仄暗い照明だけが、まだ消えずに俺たちを照らしていた。
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