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「君に性転換のクスリを打ち込んだのは、君を更生させようとしてしたことじゃないんだ。……嫌、だったから。葛葉の奴が、毎朝君に抱きついているのを見るのが。嫉妬してたんだ、たぶん。葛葉にはそんな気がないってこと、よく分かってる。あいつは男なら誰にでもああいうことをする。それは、分かってたけど、でも……やっぱり嫌だった」  だから、俺に性転換のクスリを盛ったのか。俺を女にすることで、葛葉から遠ざけるために。 「確かに君のカウンセリングの手段として、性転換のクスリを使ったけれど。それは別に最善手じゃなくて、それこそ多種多様な魔薬なんだから、君を癒すもっといいクスリはいくらでもあった」  それでも黒助が、俺を女にする魔薬を選んだ訳は、葛葉と馴れ合う俺を見たくなかったから。  嫉妬というやつだろう。葛葉が何より嫌う、女の嫉妬。  そういえば今朝、葛葉が俺に抱きつき、吐き、退散したとき。こいつ、結構嬉しそうだったな。  それはそういう訳だったのか。 「自分勝手だった。僕は、僕のエゴの為に君を取り巻く状況を利用したんだ。ぼ、僕は嫌な奴だな」 「そんなことはないだろ」  そんなことは、ない。  少なくとも、すごく人間らしくていいと思う。人間として素人の俺には、なかなか抱けない感情だ。 「そう……かな。でも、きっと迷惑だろう。僕なんかが……男と女を一日毎に交代するなんていう、得体の知れない存在の僕が、誰かを好きになるなんて、きっと気持ち悪いと思うから」  黒助は目を見開いていた。目を閉じると、涙が零れてしまいそうになっていた。鼻が赤くなり、唇を噛み締めて、こぶしを握って、俯いている。  男と女を繰り返す。  そんな黒助は、自分が抱く感情に戸惑ったのだろう。  異性という概念が崩壊する。異性という存在が、次の日には同性へと様変わりするのだから。それは、あまりに恋愛に対して不利だった。不条理に変更せざるを得ない性別が、黒助の恋愛には不合理だった。
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