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黒助は自分を『気持ち悪い』と評している。それがきっと、今まで黒助が自分の感情を押し殺してきた理由なのだろう。
「こんな体で、誰かを好きになるなんておかしいんだ。好きになっても、向こうが困るだけだ。だから、黙ってようと思ってたのに……」
「別に……気持ち悪くはないんじゃないか?」
俺は、素直に、そう思った。
黒助が顔を上げる。透明な涙が頬を伝って流れ落ちた。
気持ち悪くなんてないだろ、別に。世間一般において、黒助の状態は確かに奇異なのかもしれないが。
残念ながら、俺の常識ってやつは世間一般からは隔絶されて、独自の生態系を繁茂させちまってるような代物だぜ?
それこそ今更、だろ。今更その程度の事で、俺がお前を嫌いになるかよアホらしいな。
「少なくとも、そうだな。俺の中で黒助は、この世で二番目に好きだ」
勿論一番は譲れない。この世界に光り輝く、神の作りたもうた崇高な剛体。釘だ。
だが人間の中でなら。
きっと黒助の事を一番――
「ぼ、僕は君を好きでいていいんだろうか」
「俺に聞くなよ。それはお前の問題だろう」
「ん、わかった。……ありがとう」
黒助は涙をぬぐい、向日葵の咲くようなあどけない笑顔を俺にくれた。それから恐る恐る、俺の服の裾をつかむ。
「じゃあ、宣言する」
黒助はすっきりとした表情をしていた。いつものように、少し皮肉気な様子を取り戻していた。
そして、女らしく堂々と。
釘の裏を返すように――念押しするように、俺への好意をこれ以上ない形で表した。
「僕が君の一番じゃないと嫌だ」
『一番じゃないと嫌』。小説なんかでよく見る、女が男に主張する我儘な名台詞を、黒助ははっきりと口にした。
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