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 俺は鼻息荒く、患者仲間の黒装束の女に対して、今朝俺が見た『美』について語った。 「黒助、素晴らしいとは思わないか? その細長い肢体に渦巻くように走る凹凸。此の世の美を一点に集約すれば、きっとこういう形態になるのだと俺は思う。ああ、その輝く体……いつまでも目に映していたい。どうして俺の目にはこう艶かしく映るのだろう。この捻りの扇情的な誘いといったらもう、俺は興奮して夜も眠れなくなりそうだ。見た目だけじゃない、その用途においても素晴らしい。本来その肢体は細長く、他者の引張りには弱いのだけれど……なんと驚くなかれ、この凹凸の捻りが加わることによって、引っ張り耐性が二倍に昇華するのだ!」 「……ごめん、何の話だっけ」 「スクリュー釘の話に決まってるだろうが!」  俺は朝食の置かれた食卓を、両の拳で叩いた。衝撃で食器が耳障りな音を立てて動いたので、黒装束の女は顔をしかめた。 「へえ、そりゃいいね。じゃあ、どうして君はそんな美しいものを口の中に突っ込んで、歯を磨こうなんていう狂った発想に至ったのかな」 「バカだな、スクリュー釘のギザギザの部分で、歯垢を取るために決まってるだろ? その後の爽快感と言ったら……歯ブラシなんていう下等な歯垢除去器具を、俺はもう一生使えないな。それに、スクリュー釘を咥えた時の、あのなんともいえない亜鉛メッキの味が堪らない。今俺が食っているパンが粘土に思えてくるぞ」 「うわあ貴重な意見をありがとう釘宮君。僕は全力で君との今後の接触を、拒否させてもらうよ」  黒装束の女、通称黒助が、俺に汚いものでも見るような目つきを送ってきた。  ああ、確かにそうだろう。俺のした行為はスクリュー釘を穢す行為にも取られかねない。だが……あの釘歯ブラシ、どうにも病み付きになるのだ。  俺にスクリュー釘からの誘惑を断れと!? 正論だ……正論だがしかし! 「それは俺に死ねといっているのと同義だぞ!」 「親を殺した犯人が実は姉だったかのような、苦渋に満ちた表情をありがとう。その元となっているのが何故スクリュー釘なのかが、僕にはどうしても分からないけど」
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