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 どうやら俺の価値観と黒助の価値観には、齟齬があるらしい。俺は憐憫の情を瞳に宿して黒助を見つめた。スクリュー釘の美しさを理解できないだなんて、なんて可愛そうなやつなんだ。おそらく人生の五分の四は損をして生きているに違いない。 「君のその視線は僕にとって非常に不快だよ」と呟きながら、黒助は鼻を鳴らすようにして腕を組んだ。  更に黒助は苦々しげに眉をひそめる。 「どうして君は、現在君の体に起こっているその珍事に対するリアクションが、そんなに薄いの? 君の頭に、自分の現状を理解できるほどの脳味噌が詰まっているのか、僕は甚だ疑問だよ」  ため息をつかれる。何だ、何だというんだ。俺には黒助が何故失望しているのかが分からない。昔からコイツは言い回しがくどいのだ。きちんと俺が理解できるように喋れ。 「ようするに」  黒助は目を半眼にして唸る。 「どうして君は、絶好調、女の子中なのかってことだよ」  黒助に言われて、俺はようやく自分の体に訪れた異変を思い出した。 「ああ、これ」  俺は間の抜けた声を上げながら、自分の体を見下ろした。  やわらかい脂肪の塊が俺の胸元には隆起し、筋肉という筋肉が丸みを帯びてしまっている。布地の感覚からしても、どうにも下の方にあるはずの、俺がこれまで十八年間付き合ってきた親友の気配が存在しない。  確かに、どうにも俺の性別は変質してしまっているようだ。 「変質、ねぇ。確かに物事の性質が変化する時に使う言葉ではあるけれど。それは性別が変化したときに使うべき言葉なのだろうか」 「さあ」 「……随分と他人事だね。まあ僕にとっても他人事なんだけど」 「俺にとって大事なことは、釘を打てるか打てないかだからな。奴等医師どもがいうところの『疾患』に関して、それこそ何も変質していなかった。だから、俺は自分の体が女体化していようがしていまいが、なんら不都合は無い」
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