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 俺は唇を尖らせながら、ポケットから丸釘――いわゆる普通の形状の釘を取り出し、空中に投げた。  くるくると不規則に回転する釘を俺は愛おしい気持ちで見つめ――そのまま釘に向かって拳を振り下ろした。  重々しい音と共に、釘を伴った俺の拳は食卓に叩きつけられる。拳をのけると、見事テーブルクロスと食卓を縫いとめ、絶妙な加減で突き刺さる、丸釘の愛らしい銀色の円が存在している。 「今日も絶好調だね、釘宮君。穴の開いたテーブルクロスと食卓、弁償しろよ?」 「弁償? 馬鹿言えよ。この美しき丸釘を打ち込まれ、食卓が華やかになったじゃないか。感謝されてお金を貰う事はあっても、お金を払わされるいわれは無い」 「言うね。結局その釘だってどっかから勝手に抜いた奴だろ? これは由々しき窃盗じゃないか」 「窃盗? いいや、この釘達は設計者の糞野郎が間違った場所に打ち込みやがった、いうなれば家なき子達だぜ? 真面目な話、俺がこいつらを救ってやらなかったら、どうなっていた事か」  釘を打ち込んだとき、時々『パンチング』と呼ばれる、釘頭の断面積と支圧面での抵抗力の関係から、釘が構造物にめり込んで、耐力板などが破壊される現象が起こる。  要するに釘の打ち間違いというのは、建築物そのものを破壊する危険性を、十二分に含んでいるのだ。  そしてこの病院は相当杜撰な設計がされているらしい。俺はあちこちに釘の打ち間違いを発見した。  この釘の打ち間違いというのがまた厄介だ。いかに厳しい査定が入ろうと普通、釘の種類までは確認しないから、間違いが殆ど露呈しない。同時に、釘の間隔を守らなかったりしている場所も見つけた。  つまり、この病院は構造物としてあまりに欠陥を抱えていた。黒助は笑うが、俺はこの建物がいつ崩れてもおかしくは無いと信じている。だから俺は、誤った場所に打ち込まれた釘を救出する事に、命を賭けている。同時に正しい場所に正しい釘を打ち込む事も、使命としている。
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