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「ち、違うんです違うんですわ。釘宮様、葛葉は……」
葛葉(十四歳)は蒼ざめた表情のまま、よろよろと俺に近づく。
「おい、葛葉かっこ十四歳。無理はするな」
俺は眉間に皺を寄せ、安静にさせようと少し葛葉(十四歳)の肩を掴む。
「汚い手で勝手に触ってんじゃねぇぞクソが! ……あ、違うんですわ、今のは!」
葛葉(十四歳)に思いっきり俺の手が薙ぎ払われた。そして罵倒。すぐに葛葉(十四歳)は謝るものの、俺の精神的ダメージは割りと大きい。
黒助が隣で口元を押さえて、肩を震わせている。笑ってんじゃねぇよ。
「釘宮様! 違うんです、葛葉は貴方様の事が嫌いになったのではなく近づくんじゃねえ雌豚が! 指一本でも触れてみろ、その眼球を抉るぞ! ……あ! 違います! 違うんです!」
葛葉(十四歳)は俺が近づく度に罵倒した。そして気分が悪くなったのか、青白い顔でうずくまる。口を押さえて震える。
黒助が葛葉(十四歳)の背中をさすり、少しだけ介抱する。葛葉(十四歳)は口を拭って、俺からじりじりと距離を取るように後ずさった。
「おかしいですわ。どうして釘宮様はそんな汚らしいお姿に……」
葛葉(十四歳)の動揺は、実は俺にも伝播していた。俺はこの状態で初めて、困惑を抱いていた。
「いや、分からん……朝起きてたらこうなっていた」
「そうですか……よく分かりませんけど、葛葉はどうやらここに長居しない方が、懸命であるようです。そして突込みが遅くなりましたが、葛葉は二十六歳ですわ! 何の嫌がらせですか!」
ごめん、なんだかお前を年上だと認めたくなくて、つい。だってちっちゃいし。
葛葉(容姿年齢十四歳、実年齢二十六歳)は顔を真っ赤にして怒っていた。そして俺に背を向けて、嵐のように去っていった。
年齢うんぬんはともかくとして、なんとなく、俺と黒助は言葉を紡げなかった。
先ほどの葛葉(二十六歳)の嘔吐。水が地面に染みこむように、じわじわと俺は現状を把握し始めていた。
「……こほ」
黒助が小さく咳をした。そういえば少しだけ頬が赤い。加えて――何故かこいつは微笑していた。
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