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「行ってくるわな、緋沙(ヒサ)」
「いってらっしゃい芳ちゃん。気ぃつけてぇな」
表情のひの字も動かさず、ズボン直しの手も休めないまま緋沙子はそう言った。
緋沙子は兄のことを「兄」と呼ばない。母親が呼ぶように「芳ちゃん」と呼ぶのが常である。
まぁ、仕方ないのかもしれない。兄の食事の支度をするのも身の回りの品を整えるのも全て彼女の役で、「妹」でありながら彼の「母」のようであるから。
芳一の仕事はと言えば、外へふらと出かけることだけ。
彼は「自称・探偵」。あくまで「自称」だ。本当に探偵業など営んではいない。毎日出かけはするのだが、出先で何か特に探偵らしいことをしているわけではない。
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