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品を受け取ってすぐ、逃げるようにその家の玄関を出ると、出てすぐの地面に大きな金魚の死骸が転がっていた。鮮やかな赤の印象的な、更紗模様の琉金だった。
「せいぜい気をつけなはれや」
びくりとして声のした方を見ると、自分より幾分か年下であろう、女形のように華奢な、若い男がそこにいた。煙管片手に、引き戸横の壁に背をもたせかけ立っているその男は、狐面のような目を微かに細め、にたりと笑った。
「大事なもんは、失て(ウシノテ)しもたら戻らへん……」
男が、商談のアメリカ渡航をすっぽかしたその数日後、彼が乗るはずだったその船が転覆したとの知らせが入った。
「さよなら三角また来て四角…」
歌いながら仕事をしていた緋沙子はふいと手を止めた。
「……あーあ、今度はええけど次はあの人、逃げ切れそうにあらへんなぁ……」
憐れみとも嘲笑ともつかない薄い笑みを漏らすと、緋沙子はまた仕事に戻った。
「絡んだ藻屑は花名残、それともどろどろ泥へどろ……」
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