第一話

13/57
前へ
/175ページ
次へ
二. 「さよなら三角また来て四角……」  数日前にカーリーボブに整えた黒髪を風がくすぐる。  赤い口紅をこってり塗った、ぽてっとした唇で歌を口ずさみながら、須磨子は美篶の市街を歩いていた。  塗り籠め橋前にある大柳の下をくぐったその時、今まさに渡ろうとした丹塗りの太鼓橋がふっと消えて、代わりに、農道と 田のあるのどかな風景が現れた。 「あら?」  どこかで道を間違えたかしら? 須磨子は首を傾げた。  わたくしは市街にいて、目の前に橋があったと思うのだけど……気のせい? ううん、そんなはずないわ。確かに橋があったわ。それともあれは、幻覚?
/175ページ

最初のコメントを投稿しよう!

370人が本棚に入れています
本棚に追加