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彼女にとって、家は居心地の悪い場所だった。
娘が女学校を出たら、家柄・人柄が良く、商才がある、と自分たちが認める男を婿として迎え入れ、契りを結ばせよう。美篶で一番の呉服屋を営む両親はそう考えていた。大事な大事な可愛い一人娘の将来には、それが一番最善であると踏んでのことだ。
しかし、須磨子はそうは思わなかった。女学校を出たら働いて、自立した女になりたい、そして自立した暮らしをする中で、たとい家柄や世間体が悪くとも自分がこれと思う、そういう相手を見つけ、大恋愛に身を焦がしたりしたい、常々そう考えていた。
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