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蒼い池の中のようにその家の中は静かだった。障子越しに入る傾きかけた日の光と長い影が、夕刻を告げている。
柱時計は壊れていて、埃を被って動かない。箪笥の上の置き時計も、その脇に立て掛けてあるのも、襖の横に転がっている懐中時計も、全てがそうだった。
その、壊れた時計だらけの座敷に、一人の少女がちんまりと座っている。
年の頃は十二、三といったところ。少し癖のある長い髪に赤いリボンの髪留めをつけ、白地に緋牡丹の染め付けられた振り袖を着て、真っ赤な帯を締めている。
名前は緋沙子(ヒサコ)。
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