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タクシーの窓をノックで三度叩けばシートに背を預けていた運転手が無愛想な顔をこちらに見せる。
そんな顔じゃ観光客は逃げるぞ、と思うがタクシーはただ運ぶだけだから愛想なんかいらないとさえ思えた。
「兄ちゃん、地元の人だろ?」
いきなりの言葉。無愛想な顔を朗らかな笑顔に変えて運転手が問いかけてくる。
それに一応頷くと運転手は一度頷く。
「ふはは! 確かに前なら俺ら運転手は暇で暇でシート倒してクーラーガンガンにして寝てたさ。今はわざわざノックまでして起こす必要なんか無いくらい引っ切り無しに客が舞い込んでくるのさ」
新空港様様、と言う訳で新しい飛行場は遠く、タクシー会社は儲かっているらしい。
行きも帰りも片道1000円は必ず超えるし観光客ばかりで休む暇も無いと。
「変わりましたね。思わず僕は何処かにあるんじゃないかって罅割れを探してしまいましたよ」
僕の冗談に笑い、運転手は後部座席に乗るドアを開けて笑顔のまま質問がマシンガンのように飛び出し、その全てを捌きつつ地元愛について大きく語る運転手のおじさんの話を聞きながら背後に流れていく風景に目を向けていた。
綺麗に整備された空港を出れば、そこは地元の懐かしい風景が僕の目に飛び込んでくる。
コンクリートで固められた家々に木々が羅列し、緑がいっぱいというより緑しかない並木道が面白みもなく続いていく。
小さい塗装が剥げかかった個人商店、乳母車に買い物袋を乗せて歩く老婆、交通法に違反してるのを気に留めずに止められる車。
石垣が青い苔塗れで多少崩れていたとしても気にしない、放り捨てられた錆だらけで雑草で覆われている古ぼけた車、平気で煙草の吸殻を窓から捨てる対向車。
その光景に思わず笑みを零してしまう、その県民性を僕に改めて見せてくれるのだ。
「だから、俺は地元民が良いわけよ、内地の人間は何を考えてるのか解らん。誰も彼も静かで馬鹿みたいにずっと頷くだけな訳よ。まるで機械みたいさ」
どうやら愚痴にシフトしていたらしい。運転手のおじさんの弁は熱が入り、ハンドルを握る仕草にも力が入っている。
チラリとミラーでこちらを見て確認していた。
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