8人が本棚に入れています
本棚に追加
少女は下流域に住んでいたため、土砂の直撃を免れた。
雨が降り続けるその日、中学校は臨時で休みとなっていたが、彼女はそこへ行かなければならなかった。家財道具を上へ上へと積み上げる両親の目を盗み、濡れるのを覚悟で外に出た。
道路は浸水と呼ぶには少々大げさな程度だった。一面の巨大な水たまりが、緩やかな坂を勢いよく下へ下へと流れていく。その深さは2センチほどだった。
大丈夫、行ける。
彼女を学校へ駆り立てたのは、幼い恋心だった。焦がれた人との『約束』があった。
《誰もいない学校で、一日中一緒にいよう》と、その人が言った。
最初のコメントを投稿しよう!