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退却した陣地において歓声が上がる皆の顔を見ると自然に綻ぶ。辺りを一瞥すると、丁度目の前に腰掛けるには手頃な岩が鎮座しており、疲れ切った身体を休める為にドカッと腰を降ろす。
「やりましたな!
結城殿!」
漸く落ち着くと思った矢先に出鼻を挫かれるが、疲れも見せずスッと立ち上がるとにっこりと笑う。
その男はこの地に似つかわしくない金髪の髪を靡かせ、見上げる程の大男。
それに話し掛けるのは白髪な生えた初老の男。問い掛けた相手の手には赤黒い角が握られていた。
「んな事ねぇよ。
たかが角一本だろ?
もうちっとだったのによ」
「いやいや、
これで奴等に討ち取られた魂も、少しは浮かばれるというもの。
どれもこれも結城殿のお陰、
これからの進撃が……」
「父さん!」
会話を遮る様に甲高い幼い声が聞こえる。年の頃は6つ位だろうか小さな声があがった。
「おっ、ユーリか?」
トコトコと駆け寄る幼子を大事そうに抱きかかえると、手元よりゴソゴソと戦果の証である角を手渡す。
「父さん凄いや!
あの童子の角を切ったの?」
「んふ~、凄ぇだろ?
ちゃんと結界の中に居たか?」
「もちろん!」
「ユーリ殿、いま儂が話しとる最中なんだが?」
「助爺の話は長くて嫌だ!」
助爺と言われた男は苦笑いを浮かべながら、白髪混じりの薄くなった髪の無い頭をポリポリとかく。
「ユーキ、ご無事で何よりです」
「おぉ、リーサ。
ユージは無事か?」
風の様に靡く綺麗な長髪を髪留めで結ったリーサと呼ばれた女性は、ゆっくりと腕の中を見せる。そこにはスヤスヤと寝息を立てる赤子。
「僕が面倒を見てたんだよ!」
したり顔の笑みを浮かべる姿を見ると自然に顔が綻ぶ。頭に手をやり、よくやったと優しく撫でた。
「ユーリ殿は爺をからかっていただけではないですか」
鋭い助爺の突っ込みにユーリは舌をペロッと出すと、笑い声が響いていた。
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