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「しかし、俺がここに居るのも助爺のお陰だな」
「へぇ、あの時は驚きましたな」
今から数年前、この地に流れる河川敷。妖の攻撃は執拗になってた。
「おーい!
また土左衛門が上がったぞ!」
耳元でそう叫ばれ、混濁した意識を取り戻す。
(土左衛門?)
「あの妖達が現れてからこれで何人目だ?」
「もう、数え切れん位じゃのぅ。それにこの仏さん余程怖かったのか髪の毛が金色に変わっちょる」
(勝手に殺すなよ……。
しかし、世界は変わったのか?
あれは……成功したんだろうか?)
「おーい!こっちも上がったぞ!
こっちは女子じゃ!」
河川敷の傍には埋葬出来ない数の死体が放置されており、彼もその仲間になろうと運ばれていた。
「ちょっ、勝手に殺すなよ……」
弱々しく口を開いた言葉に辺りは喧騒に包まれた。周りの人からすると、死体がいきなり話し出した事による驚きだった。
「俺と、一緒に……
女は……居なかったか!?」
「女子の死体ならあっちに……」
村人の指差す方向を凝視した男は傷付いた身体を無理矢理起こす。砂時計をあしらった装飾の鎧を身に纏い、身体を引きずる様に女の傍に寄る。
「リーサ!
リーサ!返事をしろ!」
男の呼び掛けに微動だにせず、薄手のドレスを身に纏った女性は蒼白い顔を硬直させる。彼女の付けた耳元のイヤリングからは水が滴っていた。
周りの男達は両の手を胸元で合わせ諦めるかの様に見守っている。
「あぁくそっ!何だここは?
精霊の力が弱過ぎる」
そう呟くと徐に拳を握り締め力を込める。
「ユーキ・シャーロットの名に命ず……
癒やしの光よ此処へ……」
男がそう呟くと両手がボワッと光る。その不思議な光は彼女を包み、蒼白かった血色がみるみる良くなっていく。
「取り敢えず一安心か?
それにこの世界は?
あれは成功したのか……?」
辺りをキョロキョロと見渡す謎の男を他所に、先程の不思議な行為に驚きを隠せない男達がオドオドと話し掛ける。
「儂は助右衛門というが、
あっあんたは一体?」
「ん?俺か?
俺は……」
一拍考えると男は静かに答える。
「俺は……ユーキ・土左衛門だ」
「結城 土左衛門とな?」
これより彼の名は、結城 土左衛門となった。
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