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闘いは人間にとって疲弊の一方を辿っていた。奇襲なら先刻の様に少数部隊と結城で対抗出来るが、人間は妖達に対し個々の能力差があり過ぎていた。
妖相手に対し戦力的に唯一対抗出来るのが結城一人であり、他の者は妖の雑兵しか対抗出来ていない実情。
しかし結城がこの地に辿り着いてから善戦出来ているのは彼の力に他ならない。また彼等の生活は結城の張った結界の中にあり妖は入る事が出来ずに居た。
広大な土地に巨大な結界を張る事は出来ないが、この地に住む人達を守る程度の結界なら安定して張れる。
結城の張った結界の中に妖は入れず中の暮らしは平穏であったが、無闇に外に出る事は死を意味していた。
「しっかしあいつ等は堅いな。
俺の剣で何とかってもんだもんな」
「結城殿の剣も凄いが、あれは儂等には無理でさぁ。
奴等に対抗するには伝説の村雨でもないと……」
村雨という言葉に皆が一様に厳しい顔をする。結城は干し肉を咥えると聞きなれない言葉に首を傾げる。
「おい助爺、村雨って何だ?」
「これは儂等の中に伝わる伝説でさぁ……
鞘から抜けば玉散る氷の刃らしいんですが……」
固唾を飲む音が聞こえる静けさの中、助爺が口を開く。
今よりも遥か昔、そこは知恵のある人と力のある妖が住む世界。互いに協力しあい豊かに共生していた。
ある時、一人の妖は思う。
我等は獣に非ず人に非ず唯一無二の存在でないかと。
ならば、我等がこの地を統べるのが真理であると。
妖の進撃が始まる。
元より人より力のある妖、力の限り人の世界を蹂躙する。
人は嘆く……
力の無い者は淘汰されるのかと……
人は祈る……
今は無き神に祈る……
数多の虐殺ののち奇跡が起こる。
地を這いずる人に神が託した神の子と神剣……
『村雨』
村雨を携えた神の子は妖を退け、再び人と妖が力を携える共生の世界を築く。役目を終えた神の子と神剣はいずこかへと消える。
「とまぁ、こんな話しですわ」
「ふ~ ん、昔は人も妖も仲良くしてたのか……」
「昔話ですがのぅ」
助爺の昔話に皆が頷き悔しさのあまり頬に涙を見せる者もいる中、一人の少年が立ち上がる。
「じゃあ僕が村雨を見つけてあげる!
だって村雨があれば皆仲良くなれるんでしょ?」
虚ろな虚無感が満ちる中、ユーリの瞳の奥には自らの思い描く平和な未来があった。
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