エルフの都

36/37
415人が本棚に入れています
本棚に追加
/563ページ
 イレウスはユーリをシーリウスの国境付近に降ろすと、静かに歩き始める。    こげ茶色したローブを纏い、フードを深く被るとまたひと筋の涙が零れる。  泣き腫らした瞳は細目の為か分かりづらい。  抱き締めた温もりはまだ腕の中にあり、ぽっかりと穴が空いた様に思えた。  自分の心境とは裏腹に、履きならしたブーツは雑草を掻き分けサラサラと、小気味の良い音を鳴らす。  私は恨まれ役になってしまった。本当の事は女王や皆には言えない……  この首を差し出せと、言われれば素直に従おう。  エルフの都を去れと言われれば、去る覚悟もある。  全てはエルフの為、私が恨まれて済むのであれば皆の恨みを一身に受けよう。  イレウスは森の外れに来ると、魔法陣を展開した。  胸に去来するはユーリの嬉しそうな顔。  何故だかいつもより魔法陣が一回り大きく感じられ、フーッと肺の中の酸素を吐き出すと、意を決した様に前を向き静かに消えた。
/563ページ

最初のコメントを投稿しよう!