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「時音先輩は食べないの?」
『とっくに食った。』
「そっか。」
そう、本当に他愛もない会話。親の留守中には無かったこと。…いや、親が居た時にも無かったのかもしれない。
人が居なくなった途端、全身が圧迫されて息が出来なくなった。
何時もと変わらない筈の空が。雲が。草木が。空気が。一人別世界へ取り残されたような感覚だった事を覚えている。
「…また、時計塔の事考えてる?」
『…え、いや。』
不意に心中突かれれば、俺はぎこちない返事を返してしまった。
「考え過ぎじゃないですか?また、体壊すよ。」
悪い、そう呟いて俺は立ち上がりまたキャンバスと向き合った。
筆を手に取ると、浮かんでくるものをするすると筆を滑らせ描いていく。
青は空。
白は雲。
緑は草木。
キャンバスは自由だ。様々な色に染まり、あらゆる姿を映し出す。
それに比べて人はどうだろう。
皆、自分の色というものを持ち、誰色にも染まらない。
少しだけ、俺はそんなキャンバスが羨ましかった。
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