第1章

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夕焼けのオレンジを閉め出すように夜の暗幕が降り、街が光の衣装を纏い始める頃、家へ向かう人や居場所を求めてさまよう人達が改札から吐き出されて行く。 千葉県船橋市、JR総武線船橋駅の改札を出て直ぐ目に入るのは、様々な特産品を売っている簡易販売の多さと、水が滞ったように溜まる人の多さだ。 JR線と東武野田線が併用する駅は、文字通り人で溢れている。 珍しい売り物に足を緩める人達を潜り抜け、駅を出て右方向へ足を進めると小さな店が点在する細い通りに出た。 左方向へ向かうとドン・キホーテやドドール、チェーン店や個人店、パチンコ店などが連なる賑やかな通りであるのに対し、こちら側はどちらかと言うと裏通りになる為か、どこかひっそりとした印象を受ける。 細い路地を進んで行くと、カウンター席にテーブル席が3つの小さな居酒屋が、足元を照らす明かりを溢していた。 白い布に『日昇』と水墨風に黒字で書かれた暖簾を潜ると、格子状に硝子の入った引き戸を開ける。 ガラガラガラ…。 戸板がレールの上を滑る独特の音が店内に響いて、カウンターの中の店主が顔を上げた。 「よう智也、いらっしゃい!」 「お疲れ。」 幼馴染みの店主に軽く右手を上げて挨拶する。 柴崎智也はカウンターの中から投げられたお絞りをキャッチして、カウンターの左側1番奥の何時もの席に腰を降ろした。 「お疲れ様。」 注文しないでも、栓を抜かれたビールの小瓶とお通しが出て来る。 仕事が終わった帰り道、幼馴染みの宏樹が経営するこの居酒屋に寄り、ささやかな晩酌をするのが智也の日課になっていた。
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