第1章

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静岡県浜松市、愛知県との県境に近い場所に存在する、航空自衛隊静浜基地。 近年ではエアーパークと言う、日本で唯一の航空自衛隊のテーマパークがある事で有名だ。 航空祭や基地見学等、民間の人達との交友を大事にしている。 その静浜基地はこの日、朝から何時もと様子が違い、基地の中を行き来する隊員達の顔にも、若干の緊張が現れていた。 1年程前から、航空宇宙技術研究所のメンバーがこの基地へと出入りをしている。 科学者であったり、エンジニアや技術者であったり、様々な顔が日を増す事に基地内を埋めて行く様は圧巻な程だった。 航空宇宙技術研究所が遙々、東京都調布市からこの静浜基地へと出向いている理由は、陸上飛行時に問題となるソニックブーム低減に向けた研究などで、NASAとの間での共同研究が実施されている超音速機、その試験飛行の為だ。 航空宇宙技術研究所でのエンジン研究では、将来を見据えた極超音速機用スクラムジェットエンジンなどで基礎研究が継続されていて、 その他、次世代運航システム、成層圏プラットホーム、航空機用複合材料などの研究も行われている。 世紀の開発になるかも知れない小型機での試験飛行。 10数年に渡る研究と、1年以上の準備が、この1日の為に費やされた。 空は快晴、澄み渡る青い空に、白い機体の横に赤いラインの入った小型機が、夏の光を反射させて地上を離れる準備を整える。 航空宇宙技術研究所のメンバーの緊張は、否応なく基地全体に伝わり、自衛官隊員達の間にも感染症のように広まって行く。 滑走路の果てが陽炎で揺らぎ、高音速のエンジン音が空気を揺るがした。 陸地と機体を繋いでいたタイヤが離れ、青い空に白い機体が小さな雲のように吸い込まれて行く。 誰もが固唾を飲んで、空に釘付けになっていた。
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