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鐘の音が空気を重く、それでいて軽く揺らした。その矛盾を優しく包容する音色に欠伸を思わず一つ。
壁から反対側の壁まで走れば、恐らくは床に伏せて休憩を求むほどに広い室内には、人が無尽蔵に敷き詰められ、ちょっとした小国なら落とせるのではと、不謹慎な感想も浮かぶ。
折り畳み式の椅子が半数をしめる室内、椅子は一切の乱れはなく、そして誰もが椅子に腰をおとしていた。
前方に伺える舞台には教卓を思わせる机が一つ置かれていて、舞台際から一人の男性が歩き出た。奇妙なことに、雰囲気が若干はりつめる。
緊張が静かに辺りに広がって、中年の男性に視線が集まる。
「えー、皆さん。今日はいそがしいなかお集まり頂き誠にありがとうございます」
頭を軽く下げた。低姿勢な男性の髪は薄緑で、特別長くもない髪を早朝鏡の前で整えたのかオールバックにされていた。
「今、皆さんは市民から軍人になる訳です。なぜ。……それは皆さんもご存知のように人類の敵であり、敵でしかないそれらから、皆を守るためです」
その声は若く、なのに勇ましい。揺るぎないその声には確固たる意識が帯びていて、きいていて不快ではなく、逆に好感をもてる。
また、ならべられた言葉 に身が引き締まり、実感が肌を撫で、これから守られる側から守る側に変わった責任の気持ちを一様に強くさせた。
そんな中真面目に話を聞かないものもいたり、やはりしてしまうのだ。それについて、今日で何回目になるか分からない欠伸をする一人の少女は考える。
「ではでは、堅苦しい話はあきたでしょうから、最後にしましょう。クルレット魔萠学園にようこそ一年生諸君、われらがクルレット魔萠学園は心から歓迎します」
盛大な拍手が前後左右からはっされ、眠たさに萎んだ目が見開けさせられる。驚きに左右を頭をふるように確認し、拍手に便乗する。
転た寝をしていたのは、私のせいではなく世界の時間の進みが早いからだと、自然の摂理を私見で歪めようとする思いを隠し、周りに合わせた。
今年クルレット魔萠高等学園(まほうこうとうがくえん)に転た寝少女は入学する。
拍手を浴びつつも、冷静に舞台の端へと消えて行く男性はいうまでもなく、クルレット魔萠学園の学園長だ。もうすこし優しくいえば校長先生である。
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