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ところ変わって、瞳が空間全体を覆うように存在する場所。そこに少年を橋から突き落とした女性と、狐の尻尾を九本生やした女性が居た。
「紫様、なぜあの者を幻想郷へ招き入れるような真似を?」
「あら、藍が興味を持つなんて珍しいわね。どういった風の吹き回しかしら?」
少年を橋から突き落とした女性――紫は、狐の尻尾を九本生やした女性――藍の方を向くと、口許を扇で隠し、意味深に目元を緩めた。その表情を見た藍は、呆れ半分疲労半分と言った顔をし、軽くため息をついた。
「紫様、私にそんな感情はありませんよ。それに……。」
「『そんな感情を向けるのは蒼野だけ。』かしら? 微笑ましいことこの上ないわねぇ。」
「~~っ!」
続く言葉を先に言い当てられたからか、第三者によって、改めて自分が何を言おうとしたのか認識させられたからかはわからないが、藍は顔を真っ赤に染める。そして、紫の口許を隠していてもわかるニヤニヤ顔を、その顔のままキッと睨んだ。
「そ、そんなことでは誤魔化されませんよ! 私は、あの者を幻想郷に招き入れた理由を、聞いているんです!」
少々捲し立てるように早口で話す藍を見て、紫はさらに笑みを深める。藍はそれを認識すると、さらに顔を赤くし、最終的にはうつむいてしまう。その結果、この空間に少しの間、沈黙が流れた。
「まあ、弄るのはこれくらいにして、さっきの質問の答えを教えましょう。」
その沈黙を破ったのは、先ほどまでの笑みを完全に引っ込め、真剣な表情となった紫であった。この頃には、藍の顔の赤みは既に引いており、紫の表情につられて、自然と真剣な表情に変化する。
「藍、あなたは……前世の記憶というものを信じるかしら?」
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