ACT.1 怒らないから話せと言われ、話したら怒られた件について

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狐牙は本棚として愛用する戸棚の 上から3番目からコップを取り出し、 期限が1日過ぎているジュースを注ぎ ソファーに戻る。 「で、具体的にはどうしたら良いの?」 コップを手渡し、ソファーに座る。 「襲名式までに俺以外に継げそうな奴を 推薦し、説得してもらいたい」 「その襲名式っていつ?」 「明後日」 口に含んでいたジュースを 思いっきり吹く。 「きったねぇな……」 呆れた顔で近くにあったティッシュで 机を拭く若頭を前に、 オーバーリアクションで嫌がった。 「いやいやいやいや、無理でしょ、 どう考えても無理」 「何故?」 「調べるのに最低1週間、 すぐ選べたとして説得するのに 時間が掛かるかもしれないでしょ?」 「目星はつけてきた」 若頭は懐から茶封筒を出し、 中の書類を広げて見せた。 黙々と読んだ狐牙はため息をつく。 「あんたにお兄さんが居るんだね」 「しかも結婚しているが継ぐ気もある」 「なら、頼めば良いじゃない」 「それを親父が認めないから ややこしいんだろ?」 そんな事も分からないのかと 言わんばかしにため息のお返し。 狐牙の中では静かに苛立ちが 増していく。 「なんで認めないの? あんたよりも厳つくて良いと思うけど」 写真の男性は若頭と言うには相応しい 風貌であり、学歴も申し分ない。 「結婚した相手が問題なんだ」 「仲の悪い組の娘さんだったとか?」 「いや」 「一般人だからって反対してるとか?」 「別に」 「じゃ何なのよ」 狐牙が詰めると、若頭は立ち上がり 窓辺付近で煙草を取り出し火をつけた。 「姐さんじゃなく、兄さんなんだよ」 「はぁ!?」 意味が分からず目を真ん丸とさせた 狐牙は耳に手を当て聞きやすいように してからもう一度聞き返す。 「once more please me.」 「だ・か・ら・ 兄貴の結婚相手は男なんだよ」 意味を何となく理解できたところで 頭を傾げた。 「何が駄目なの?」 「いや、普通駄目だろうよ!! 世間様には顔向けできないだろうし、 子が生まれねぇと、その後が不透明に なっちまうだろ?」 「まぁ……、確かに……」 「うちは代々血縁で引き継いできたのに 今さら養子とか抵抗があるんだよ」 「なら、誰かにお兄さんの子を 産んでもって養子にしたら? 行為が嫌ならお金は掛かるけど 体外受精とかもあるし」 「兄貴はやりたくないんだと」 「じゃ、若頭が継ぐしかないね。 変なプライドを捨てられないなら」
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