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そして、屋上の周りを囲う柵を見て、私は「ここにしてよかった」と思った。
シンプルな格子状の鉄柵だが、手すり部分は比較的幅広く、10センチ前後あった。
高さも150センチほどで、容易によじ登れる。
大田ユウガもすべてを察した様子で、格子を蹴って強度を確認していた。
冷たい風が私達に吹きかかり、どんよりとした薄雲が空を覆っている。
柵の向こう側には景色が広がっていて、下を見れば15メートルほど向こうにコンクリートの歩道がある。
落下すれば、無事では済まない。
ふわふわした妙な浮遊感を抱く。
私は生唾を飲みこみ……堕ちたときのことを妄想した。
ここから落ちて、風を感じ鳥となり地面に激突した後、腕は明後日の方向に曲がり、脚は卍を描いた風車のようにひしゃげるでしょう。
私は、血をお腹いっぱいに吸った蚊で、手のひらで潰されたときと同じような姿になるの。
遅れて、私の血液が地面に張られた石タイルの溝に添ってあみだくじ状に流れ、そんな私を見て道行く歩行者が一生で1回あるかないかの悲鳴をあげてくれる。
私はそんな自分を想像してゾクゾクしていた。
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