和泉カナコ ②

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ひと目惚れを表すFall in loveって『恋に堕ちる』という意味なの。 登るところまで登って、落ちたときのヴィジョンを妄想する。すると、無限の惨めさが私に情欲を与えた。 教室か煎餅布団の上かの違いくらいで、高校に通う十代と同じように、私もまた結局は狭い世界の住人だったのだろう。 社会で生きることにおいて、視野と思考を狭くするほど、恐ろしいものはない。 深夜にショッピングするのと同じように、判断力が鈍るから。 だからこそ幸せの絶頂だった。 間もなくして、私は人生最大の不幸を体験するのに……。 ──あれから途方もない時間が経った。 そう、途方もない、けどすべてが昨日のように思える、時間が……。 私はこの新宿のマンションの一室で、窓の向こうに広がるコンクリートの壁を見つめていた。 小さなため息を吐き、薬指にはめたダイヤのリングをそっとテーブルに置く。 視線を下ろし、床であぐらをかくイチに向かって言った。 「……あの日した2人の博打を覚えていますか?」 君は、私を、見つめて、いる。
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