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時は寛永。所は江戸城大奥。
三代将軍・徳川家光の乳母、お福こと春日局が権勢をふるっていた。
「御台様におかれましては、ご機嫌麗しくお喜び申し上げます」
春日局は恭しく平伏し、挨拶する。その顔は微笑を浮かべているが、何処か冷たい印象を与える。
「口先だけの挨拶など良い。どうせ心の中ではわらわの事を嘲笑っておいでなのやろう?」
扇子をパチンと鳴らし、御台所・孝子はふんと鼻で笑った。
「何をおっしゃられます。わたくしは御台様が一日も早く上様のお世継ぎを授かられますのを心から願っておりまする」
春日局は柔和な笑みを浮かべて、そう告げると、
「御台様も早うこの江戸風にお慣れ遊ばしますように。さすれば上様のお渡りも一層増えますでしょう」
と、小さく頭を下げた。
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