77人が本棚に入れています
本棚に追加
「いよいよでございますね」
初島は口元にうっすら笑みを浮かべた。
「あの傲慢な御台所の鼻をへし折ってやるつもりじゃ」
春日局は、昼の御台所との出来事を思い出したのか、いまいましげにフンと笑う。
「中の丸におこもりの御台様ですか…あの形ばかりの…」
「そうじゃ。形ばかりの人形なら人形らしく大人しくしておればいいものを、公家の姫だけあって矜持ばかり高く傲慢で、武家を馬鹿にしておるのじゃ。…あの御台の悔しがる顔を見たいと思うてな…それで、そなた、誰ぞいい娘に心当たりはないか?」
春日局の問いに、少しばかり考える顔をした後、閃いた様子で、初島は
「少し、お耳を」
と、春日局の耳元で何事かを囁いた。初島の話に、春日局がニヤリと怪しい笑みを浮かべる。
「すぐにでも上様に伝えましょうぞ」
「はい」
二人は顔を見合わせ、笑む。
その夜、闇の中で大奥の今後を揺るがす事となる歯車がにわかに動き出した事を知る者は、まだいないのであった…。
最初のコメントを投稿しよう!