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「これは、君のかい?」
柔らかな中低音の声で尋ねられて振り向くと、王子様みたいな人が、さっき飛ばされたジュースの紙パックを俺に差し出してきた。
「あ、すいません。風で飛ばされちゃって」
「それならいいんだ。俺はてっきり、あそこで読書をしているのが気に入らなくて投げつけられたのかと思ったよ」
「はい?」
なに言ってんの、この人?
俺が怪訝そうな顔をしたのに気付いたのか、気にしないでくれ、と目を伏せたその人。
入学式では、こんな王子様みたいな人は見なかったから先輩なのかな。
しかし、綺麗な顔してんな。
顔ちっちゃくて、手足長げぇ。
ハーフなのかな?
男でも見惚れるほどだから、女子からはモテモテなんだろうな。
俺なんか、クラスメイトに挨拶しても、誰?って顔をされるくらい印象に残らない平凡過ぎる顔で悲しくなるよ。
俺の身長より十センチくらいは高いだろう王子様みたいな人を見つめて色々考えていたら、伏せられていた目が俺を映した。
翡翠のような瞳に映る、平凡な俺の顔。
「君、綺麗だね」
「え?」
「その黒髪」
王子様みたいなその人の細い指が、俺の髪に触れる。
顔に熱が集まっていくのが分かる。
絶対、真っ赤な顔をしてる。
いくら王子様みたいなイケメンだからって、男に触られて赤面するとかあり得ない!
恥ずかし過ぎる! 逃げたい!
でも、金縛りにかかったみたいで体が動かない。
キーンコーンカーンコーン
「あ、もう戻らないと」
昼休みの終わりを告げるチャイムに、足早に階段へと消えていくその人。
その姿が見えなくなり、金縛りにあっていた体がやっと自由を取り戻した。
何なんだったんだ、アレ?
胸に手をあてると、心臓がここから出せ!と言わんばかりに騒いでる。
って、なんでドキドキしてんの、俺?
あぁ、アレだ、アレはあの王子様みたいな人の国の挨拶なんだよ。
うんうん、と自分を納得させるように頷き、両頬をパチンとひと叩きする。
「やべっ、急がねーと授業遅れる」
王子様みたいな人が去っていった階段へと駆けていく。
これが、俺と先輩の出会いだった。
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