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「おっはよー!」 ネクタイを結ぶのに手間取って小走りで登校して教室に入ると、三日間空席だった前の席に相川の姿があった。 いつも通りの人懐っこい笑顔を向けられ、なんだか安心して頬が緩む。 「俺がいなくて寂しかったでちゅか~? もぉ大丈夫でちゅからね、ルナちゃ~ん」 「気色わりぃなぁ。全然寂しくなんかなかったし。つーか、名前で呼ぶな」 赤ちゃんをあやすように、俺の頭をクシャクシャ撫でてくる相川の手を払う。 そうなんだ、俺の名前はルナ。 月と書いて、ルナ。 苗字は蒼井。 こんな平凡な顔してんのに、蒼井月(あおいるな)なんて、セクシー女優みたいな名前なんだ。 そして、目の前で「暴力はんたぁ~い」と体をクネクネさせてオネェになってるのが、相川翔(あいかわしょう)。 漢字は違うけど、某硬派俳優と同姓同名だ。 明るい茶髪に緩いパーマを当てている、チャラ男を絵に書いたようなルックスなのに。 性に興味を持ち始める奴が増えだした小五の頃から、クラスメイトに名前をからかわれるようになった。 女子なんか、何もしていないのに、汚いものを見るような目付きで俺を見てきた。 中一で相川と同じクラスになって、今みたいに前後の席になり、自己紹介して名前のことを愚痴り合い、すぐに意気投合した。 コンプレックスの塊だった俺が、それなりに楽しい中学生活を送れたのは、常に傍らにいて笑ってくれていた相川のお陰。
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