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そんな、ごく普通の地味なクラスメートという位置付けだった彼を初めて僕が好きだ、と感じたのはある初夏の放課後だった。
その日の下校途中、忘れ物に気付いた僕は教室へと引き返していた。そしてそこで僕は恋をした。
夕暮れ、陽光の差し込む教室。窓側の後ろから3番目の机の前に、彼は立っていた。
愛おしそうに、触れるのを躊躇う様に。その綺麗な指先を机に近付けては引っ込めて。その横顔は嬉しそうで悲しそうで。
在り来りなシチュエーション、でも僕は恋をした。そしてややこしい事態だという事も把握した。
窓側、後ろから3番目の机の持ち主は、一週間程前に冗談混じりに僕に愛を告げていた。
口許は笑っていたし口調だってそれはふざけていた。が、彼の目だけは危機迫る程に真剣だった。
人懐っこい彼はクラスのムードメーカーであり僕の幼馴染みで、つまりは彼の本当も嘘も長い付き合いだから手に取る様に解ってしまったのだった。
ああ彼は僕の事が本当に好きなのだ。
けれど本当の気持ちを冗談で覆い隠してしまったという事は、返事を必要としていないのだろう。僕は彼の気持ちに気付かなかったフリをして、何も応えなかった。
僕は彼が、彼は彼が、彼は僕が好き。漫画や小説でよくある不毛な三角関係の完成だった。
とてもよくある、ばかげた、さんかく。
「誰も彼も報われない世の中だなあ、」
他人事みたく僕は呟いた、ぽつり。
落ちたのは言葉だけだったかは、もう忘れてしまった。
終わり
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