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「あの男子は、猛君ですか?」 「ああ、すっかりと大きくなった。中身はまだまだ子供だったけどな」 「ずいぶんと成長したな。誰だかわからなかった」 「九条と石原が最後に会ったのはあいつが小学二年の時だったか」 「そうですね。確か荒上さんが連れて来て以来です」 「だったら余計にそう感じるだろうさ。俺はようやく腰を据えた辺りから会ってないんだからな。子供の成長ってもんは目まぐるしいもんだ」 「大槻さんは猛君の事をえらく気に入ってますよね」 「あいつは、小さい頃から俺の理屈を一回で心得たなかなかの逸材だからな。そりゃあ贔屓したくもなる」 「あの人のせがれっていうのも強いんじゃないですか?」 「そうじゃなくても、だ。猛には素質がある。今はまだ青いがな。成長如何によってはウチで働いてもらいたいぐらいだよ」 「先輩が学生に対してそこまで言うなんて、余程の事ですね」 「石原。それを言うならこの人とあの子の親しさを考えてみろ。この人があの子の素質を見抜くには充分な時間だろう」 「それを含めての“贔屓”だ」 「なるほど。先輩からしてみれば手間が省けて楽、という事になるんですね」 「そういう事だ。色々と聞かせたあいつ一人を育てるなら研修期間もぐっと縮んで即戦力になる。お得だろ?」 「まだウチには色々と人間面での問題が残ってるだろ。社内で贔屓してみろ。あんた、引きずり降ろされるぞ」 「あいつがウチに入ってくれるかどうかなんてまだわからねえよ。贔屓つっても付きっきりで面倒を見るわけじゃねえ」 「と、言うと?」 「仕事に対する姿勢を仕込む。ほどほどに息抜きを与えてやる。他の奴と当たりは変わらん」 「まあ、そうなるでしょうね」 「最初は大まかに決めて、後で細かいところを調整する。最初から気張ったところで結果はわからない、ですね」 「その通り。あいつがどんだけ可愛かろうが、研修が必要なのはあいつだけじゃない。贔屓するなら勤務外の時間に限る」 「家族の絆は休日に築く」 「よろしい」
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