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「人を一人育てるのだって芸術だ。どんな人間に育てるのか、どんな風に仕上げるのか。
ひとつ気を付けておくべき事があれば、それは何十年と続くような製作である事。途中で投げ出せば何もかも無意味。価値だってなくなってしまう。
人なんて素材はよ、どんな風に変わるかわからない代物だぞ。そう簡単に投げ出すって事は、お前にゃ意欲も覚悟も責任も、人間らしさも持ってなかったって事になる。とんでもない人でなしだ」
「………………」
「なんだ?」
「お前なんかもう面倒を見る気にもなれねえ、とか言ってた人がそういう事を言うのか」
「なに言ってやがる! 人間ならああやって投げ出したくなる時だってあらぁな。むしろこうしてまたお前の面倒を見てやってんのに生意気な口を叩いてんじゃねえ!」
「投げ出したくなるってのはわかりますけど、それを面倒見てるヤツに見せてどうするんすか。下手にやってると下がひねくれますって」
「なんだ? お前はもう俺に何もするなって言いたいのか?」
「ああもう、面倒くせぇな! あんたが臍曲げてひねくれてどうするんだよ! 俺が言いたいのは、どうせ上でふんぞり返ってんならもっと堂々としとけって事なんだよ! あんた、素直すぎだってんだ!」
「素直すぎってなんだ? 俺が俺の思った事に正直になるのは当たり前だろ」
「その素直さはここではいいもんだろうさ。でも、あんたこの間、転勤してきた若い人と盛大に口論してただろ」
「…………………」
「せっかく場を和ませる事を知ってんのに、ああやって喧嘩すんのはもったいないとしか思えねえんだよ。あんた、知ってんのか。あの人、今ここで一人浮いてんだぞ」
「お前、何歳だよ?」
「…………は?」
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