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「零冶くん、待って零冶くん!」
帰りたくもない家に向かって早足で歩く俺の後ろから、修太郎の声が聞こえる。たしか方向は逆だった…はず。
そんなことをしてると、修太郎は俺の前に立ちふさがった。
「待ってって零冶く…」
「君付けやめろ。」
「あ、ごめん。じゃあ…零…冶。」
おどおどしている修太郎を見てなぜかイラッとはしたが、それより先にため息が出てきた。
「で、なんだよ。」
「ぇ?あっ、そうだった。零冶さ、なんで学校…しばらく来なかったの?ご両親も行方不明だって聞くし…。」
まさかそんな事、コイツが聞くとは思わなかった。とたんに俺の顔は強張り、修太郎も何かを察した。
「あっ…ごめんね。プライベートのことだもんね。そしたら話題変えよう!えっと…あっ。」
急に何かを思い出したかのように、鞄の中を探り出した。そして、「はい」と言って俺にヘッドフォンらしき機械を手渡した。
「…何だよコレ。」
「Cyber-Hopeって知ってる?リアルアクションPCゲームなんだけど。」
「サイバー…ホープ?」
手渡されたヘッドフォンを改めて見る。よく見ると普通のとは違い、目を覆うようにプラスチック型のフィルターがあり、耳の内側には何やら小さな突起物がある。
「まるで別世界にきたような感じで、実際に戦闘したり空を飛んだり…、現実ではできないことがこのゲームでは出来るんだよ。」
「現実では…出来ない…。」
そのフレーズに思わずふけっていると、修太郎に手を握られ、思わず顔を上げた。
「良かったらさ、一緒にこのゲームやらない?コレあげるから。」
「は!?なんで?」
「ほら、俺友達いないし、零冶と友達になりたいし、一緒にやれば楽しいし。」
訳の分からない勝手な理由付けを言われていると、ヨシッと言った感じで手を離し、いきなり逆方向に走っていく。
「おいっ、まだやるって言ってない!」
「今日の夜九時、フローリアスシティって町で待ってるから。ずっと待ってるからぁ!」
そう言うと、修太郎の姿は見えなくなってしまった。
やっかいなことに巻き込まれた。そう思うと、また重いため息がこぼれた。
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