一章/絶望、希望

4/7
前へ
/9ページ
次へ
「零冶くん、待って零冶くん!」 帰りたくもない家に向かって早足で歩く俺の後ろから、修太郎の声が聞こえる。たしか方向は逆だった…はず。 そんなことをしてると、修太郎は俺の前に立ちふさがった。 「待ってって零冶く…」 「君付けやめろ。」 「あ、ごめん。じゃあ…零…冶。」 おどおどしている修太郎を見てなぜかイラッとはしたが、それより先にため息が出てきた。 「で、なんだよ。」 「ぇ?あっ、そうだった。零冶さ、なんで学校…しばらく来なかったの?ご両親も行方不明だって聞くし…。」 まさかそんな事、コイツが聞くとは思わなかった。とたんに俺の顔は強張り、修太郎も何かを察した。 「あっ…ごめんね。プライベートのことだもんね。そしたら話題変えよう!えっと…あっ。」 急に何かを思い出したかのように、鞄の中を探り出した。そして、「はい」と言って俺にヘッドフォンらしき機械を手渡した。 「…何だよコレ。」 「Cyber-Hopeって知ってる?リアルアクションPCゲームなんだけど。」 「サイバー…ホープ?」 手渡されたヘッドフォンを改めて見る。よく見ると普通のとは違い、目を覆うようにプラスチック型のフィルターがあり、耳の内側には何やら小さな突起物がある。 「まるで別世界にきたような感じで、実際に戦闘したり空を飛んだり…、現実ではできないことがこのゲームでは出来るんだよ。」 「現実では…出来ない…。」 そのフレーズに思わずふけっていると、修太郎に手を握られ、思わず顔を上げた。 「良かったらさ、一緒にこのゲームやらない?コレあげるから。」 「は!?なんで?」 「ほら、俺友達いないし、零冶と友達になりたいし、一緒にやれば楽しいし。」 訳の分からない勝手な理由付けを言われていると、ヨシッと言った感じで手を離し、いきなり逆方向に走っていく。 「おいっ、まだやるって言ってない!」 「今日の夜九時、フローリアスシティって町で待ってるから。ずっと待ってるからぁ!」 そう言うと、修太郎の姿は見えなくなってしまった。 やっかいなことに巻き込まれた。そう思うと、また重いため息がこぼれた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加