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◆ ◆ ◆
夜道(やどう)の真ん中を歩く影がひとつ。
三度笠(さんどがさ)。六角金剛棒を手にしている。
笠の下から、大きな歯がぎらりと剥き出ていた。
風体は風来坊(ふうらいぼう)。だが人ではないようだ。
夜風心地よい澄んだ一本道に、風来坊は一瞬の違和感を覚える。
―――土をえぐる焔火の轍。
「ぬッ」
風来坊は突然、真横を六角棒で振るう。
どかんっ。
空中でなにかが棒に当たり、すがたを顕した。
“アカムシ”だった。肩には静季をかついでいる。
よろめき、火車は一度急停止した。
アカムシの鼻から、つぅーと血が垂れた。
風来坊は、笠の下から覗く瞳で、キリッと相手を睨む。
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