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男は軍人だった。
しかし彼の所属していた軍は能力者の出現によって少しずつバランスの崩れた社会問題に巻き込まれ、国ごと解体された。
いや、現状ではもはや国という概念自体が意味をなさない今では言っても意味のないが、問題は彼の所属していた国が“一番最初に能力者の出現”という大きな問題から手を引いた、っという事実が残ったということだ。
この問題の最大点は、手を引いた=逃げ出した、詰まりは能力者問題から真っ先に逃げ出したという事である。
人間、いやヒトは差別をする生き物で一番最初に手を引いた国の人間というだけで男は差別を受けた。
男は能力者を恨んでいた。
それと同時に自らの祖国を恨んでいた。
その差別のせいで新たに職に着く事は出来ず、職を失うことにより家族は食えず死んで行ってしまった。
故に―、
能力者に対しては、職を失った理由に、
国に対しては問題から真っ先に手を引いた事に、
だが男は自身の恨みが押し付けである事を知っていた。
能力者達が好き好んでそうなった訳でもないことは知っていたし、
当時の祖国の経済状況が酷く、手を引くことを余儀なくされたことも知っていた。
けれども彼は恨んだ。
恨まずにはいられなかった。
彼もまたどうしようもなくヒトだったのだ。
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