第一章 ネズミの怒り

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    一  その事件が起こるきっかけとなったのは、イステム四世が王位について半年が経ったある日のことだった。突然、ネズミがこの城にやってきて、国王に会わせろと言ってきたのだ。 「すみません、国王はただいま、公務に出ておりまして、お帰りは夜になると思います」  イステム四世の側近のカスケンは、ネズミにそう話した。するとネズミは、それでも構わないと言った。お話ができるだけでも光栄だと、彼は思ったに違いない。 「それまで、部屋で休ませてもらいたい。今日は猫に追い回されて、クタクタだ」  ネズミはそういうと、カスケンの横を通り過ぎ、城に入ろうとした。さすがのカスケンもそればかりはできないので、ネズミにおいとましてくれるよう強くお願いした。 「何、中に入れてもらえないのか?」  ネズミがそういうのも無理はない。ネズミはイステム四世に会いたいがために、はるばるここにやってきたのだから、城に入ることは当然の権利だと思ったに違いない。しかしカスケンは、それを許すことはできなかった。見ず知らずのものを城に入れるなんて、国王が許すはずもないからだ。しかも、こんな身なりの悪いものを、城に入れたと国のものに知れたら、一大事だ。カスケンは、動かざるを得ない状況に今、立たされている。 「すみませんが、帰っていただけますか。あなたさまを入れるわけにはいかないのです。見ず知らずのあなたさまを入れますと、世間に申し訳が立たないものですから」 「私は国王に手紙を書いて、こうしてこちらに来たのだ。国王に私が来ること、聞いてないのか?」
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