第1話 残酷な辞令

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「俺が仕込んだお前がミスなんてするわけないだろ」  仕込んだって……。  こんな時だというのに、安藤の長い指がわたしの素肌の上を動くさまを思い出して、どきんと心臓が痛んだ。 「だったら、どうして……」 「引き抜き。なんだか優秀なのを引き抜いてきたらしいよ。で、お前のポストを空けて、そいつを入れるって」 「はぁ!?」  引き抜きって何それ! 「引き抜かれるぐらいの人なら、もっと上のポジションを渡せばいいでしょ。部長のポストとか!」  安藤を睨み付けると、「やめてくれよ~」なんてふざけた声を出している。  だって、普通に考えてそうでしょう?  わたしの職位はマーケティング部営業二課主任。役職としては一番下っぱ。  それだって、やっとやっと去年、二十六歳の時に手に入れた大切な椅子。  男尊女卑が未だ根強いこの会社で、女性としては異例の昇進と言われた。   この一年、数々のいやがらせだって笑顔でかわして、仕事一筋でがんばってきたというのに、今になって、そんな……。  怒りを通り越して、呆けてしまいそう。頭からぷしゅーっと煙が出ていると思うわ。
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