第1話 残酷な辞令

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「お前だから言うけど、俺、そろそろ本部長に昇進するから」 「…………」  伸びてきた彼の長い指が、頬に掛かっていたわたしの髪の一筋を掬い上げ耳に掛ける。  当たり前のようにそのまま髪を撫でた。  最低な男……。  この男の毒牙に掛かった女の子は一体何人いるだろう。  望みはない、未来はない、わかっているのに抵抗できない。  入社したばかりの頃、彼の見かけの優しさに簡単に溺れた。  他にも女性がいることを知った時、純粋だったわたしがどれだけ深く傷ついたか。 「で、二課の課長が部長に昇進。引き抜かれてきたそいつが課長に昇進。だから、一年以内にお前は主任に戻れるよ」 「……つまり、わたしを課長に昇進させるわけにはいかないから、一旦降格させるということですか?」 「そういうこと」 「そんなの勝手すぎる。また戻れる保証なんてないじゃないですか!」  下には優秀な後輩がたくさんいる。次は彼らが主任になってしまうかも。  わかっている。みんなを蹴散らすぐらい営業成績を伸ばすしかないということは。  だけど、もう、がんばろうなんて思えないよ。  だって努力の結晶が、こんなにも簡単に奪われちゃうんだよ。  すっごく……悔しい、悲しい、許せない。  やるせなくて両手で顔を覆った。
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