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「お前だから言うけど、俺、そろそろ本部長に昇進するから」
「…………」
伸びてきた彼の長い指が、頬に掛かっていたわたしの髪の一筋を掬い上げ耳に掛ける。
当たり前のようにそのまま髪を撫でた。
最低な男……。
この男の毒牙に掛かった女の子は一体何人いるだろう。
望みはない、未来はない、わかっているのに抵抗できない。
入社したばかりの頃、彼の見かけの優しさに簡単に溺れた。
他にも女性がいることを知った時、純粋だったわたしがどれだけ深く傷ついたか。
「で、二課の課長が部長に昇進。引き抜かれてきたそいつが課長に昇進。だから、一年以内にお前は主任に戻れるよ」
「……つまり、わたしを課長に昇進させるわけにはいかないから、一旦降格させるということですか?」
「そういうこと」
「そんなの勝手すぎる。また戻れる保証なんてないじゃないですか!」
下には優秀な後輩がたくさんいる。次は彼らが主任になってしまうかも。
わかっている。みんなを蹴散らすぐらい営業成績を伸ばすしかないということは。
だけど、もう、がんばろうなんて思えないよ。
だって努力の結晶が、こんなにも簡単に奪われちゃうんだよ。
すっごく……悔しい、悲しい、許せない。
やるせなくて両手で顔を覆った。
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