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「大丈夫だよ。俺が責任をもってお前を主任に戻すから」
安藤はわたしの背中に手を回し抱き寄せた。
胸元からマリンの香りが漂う。
この香りに包まれるだけで昔は幸せを感じていたっけ。
今は痛みしか与えない香りを振り払うように、その胸を力強く押し返した。
「やめてよ! 今の地位はわたしが努力して手に入れたものよ。あなたに助けられたわけじゃない。これからだって、あなたの助けを借りるつもりなんてないわ」
キッと睨み付ければ、「もちろんだよ」と彼は降参でもするかのように両手を上げて肩を竦めた。
「どうしてこんなふうになっちゃったのかな。入社してきた頃は初々しくてかわいかったのに」
かわいくなくなったのは誰のせいよ。
そんなセリフを辛うじて飲み込んだ。
今でもわたしが安藤を好きだなんて勘違いされたら悔しい。
安藤とわたしの関係は社内でも知られていた。
だから、わたしが主任に昇進した時は、安藤が引き上げたんだろうなんて陰口を叩かれたものだ。
もちろん、そんなんじゃない。
常に営業成績はトップだったし、わたし以上の適任者なんていなかったはずだから。
そんな噂を跳ね除けるぐらい、がんばって、がんばって働いてきたのに、結果、降格だなんて。
みんなから、どんな目で見られるだろう。
自分が惨めで泣けてくる。
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